忙しい日々のなかで、私たちはつい「呼吸」を忘れてしまいがち。
けれど実は、呼吸こそが心と体を整える最も身近で、最もパワフルなツールです。
ヨガをしていなくても、瞑想に興味がなくても関係ありません。
呼吸は、誰もが最初から持っている「自分を整える力」なのです。

深くゆったりと呼吸をするだけで
頭の中のざわめきが静まり
体のこわばりがゆるみ
心にスペースが生まれる。
今回は、そんな呼吸の力を、ヨガの伝統的な呼吸法「プラーナヤーマ」をもとに、わかりやすくご紹介していきます。
呼吸を変えると、世界の見え方も変わる。
そんな体験を、あなたもぜひ味わってください。
ヨガの伝統的な呼吸法「プラーナヤーマ」

「プラーナヤーマ(prāṇāyāma)」は、サンスクリット語の「プラーナ」と「アーヤーマ」の2語で成り立っています。
- プラーナ(prāṇa):呼吸、生命力
- アーヤーマ(āyāma):整える、調整する、増やす
一般的には「呼吸法」と訳されますが、実はただの呼吸トレーニングではなく、「生命エネルギーの調整法」という、深い意味があります。
プラーナとは?目に見えない、生きる力
「プラーナ」とは、サンスクリット語で「呼吸」「生命力」などを意味する言葉。
東洋医学の「気」にも通じる考え方で、私たちの内側で心臓を動かし、細胞を生かし、思考を巡らせる原動力となる――。
たとえば、同じ条件で植えた2つの種。
ひとつは芽を出し、やがて花を咲かせたのに、もうひとつはなぜか発芽しない。
この違いは、目には見えないけれど確かに存在する“生命力=プラーナ”にあると、ヨガでは考えます。
アーヤーマとは?プラーナの流れを調整し、増やす
プラーナヤーマの「アーヤーマ」は、「調整」「増やす」などの意味。
「プラーナ=生命エネルギー」を意識的に調整し、増やしていく(広げていく)ことをあらわしています。
呼吸が変わると、生命力も変わる
私たちは日々あたりまえのように呼吸をしていますが、ヨガではこの「呼吸」を、ただの酸素の出入りとはとらえていません。
呼吸は、「生命エネルギー=プラーナ」を取り込む行為であり、「生きる力」を外界から自分の内側に取り入れる、最も基本的で、本質的な営みなのです。
そのためヨガでは、生命力を高める鍵として「プラーナヤーマ」が重視されています。
プラーナは、呼吸だけでなく次のようなものからも取り入れることができるといわれています。
- 新鮮な空気と呼吸
- 太陽の光
- 良質な食べ物
- 穏やかな人との関わりや感情のやりとり
なかでも呼吸はもっとも手軽で、いつでも誰でも実践できる方法です。
呼吸が浅くなると、気分が重くなったり、疲れやすくなったりしますよね。
逆に、深くゆったりとした呼吸は、頭や心をすっきりとクリアにしてくれます。
まさに「呼吸が変わると、生命力が変わる」。
それがプラーナヤーマの気づきであり、実感できる大きな変化なのです。
ナーディとチャクラのしくみ|プラーナが巡るルートを知る

酸素を取り入れるという、生理的な面でも重要な「呼吸」。
ヨガではそれを超え、呼吸は“プラーナ(生命力)”を取り込む行為ととらえています。
そして面白いことに、プラーナを取り込んでいると意識しながら呼吸するだけで、より多くのプラーナが巡りやすくなるともいわれているのです。
そこでこの章では、プラーナが私たちの体の中をどのようにめぐっているのか――
そのエネルギーの通り道「ナーディ」と、交差点である「チャクラ」の仕組みをひもといていきましょう。
プラーナが流れる通り道「ナーディ(Nāḍī)」
「ナーディ」とは、サンスクリット語で「管」や「流れ」を意味し、プラーナの通り道のことを指します。
ヨガの古典では、人の体には72,000本ものナーディが存在しているとされ、血管や神経のように、全身をくまなく流れていると考えられています。
なかでも、とくに重要とされるのが以下の3つのナーディです。
- スシュムナー管
- イダー管
- ピンガラ管
- ①スシュムナー管(Sushumna)
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- 背骨に沿ってまっすぐ通る、エネルギーの幹線道路
- 体の中心軸を貫く、最も大切なナーディ
- 7つのチャクラがこの管の上に並んでいる
- ② イダー管(Ida)
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- 左の鼻の奥から、脳の中心部「松果体」へとつながる
- 陰のエネルギー(月・静けさ・感性)をつかさどる
- 副交感神経とつながる性質がある
松果体とは?
脳の奥深く、間脳にある小さな内分泌器官。メラトニンというホルモンを分泌し、睡眠や体内時計を調節する役割を担っている。
- ③ピンガラ管(Pingala)
-
- 右の鼻の奥から、同じく松果体へとつながる
- 陽のエネルギー(太陽・活動・論理)をつかさどる
- 交感神経との関係が深い
まっすぐ伸びるスシュムナー管を中心に、そのまわりをイダー管とピンガラ管が螺旋を描くように流れています。
この3つのナーディが交わる点を「チャクラ」といい、エネルギーの中心点となっています。
エネルギーの交差点「チャクラ」とは?
「チャクラ」はサンスクリット語で「車輪」「回転するもの」という意味があります。
3つのナーディが交差する場所にあり、プラーナが集中して巡るエネルギーセンターです。
人の体には主に7つのチャクラがあるとされ、それぞれに位置・色・テーマ・象徴する感情や身体部位があります。
チャクラが整っていると心身ともに調和が取れ、逆に滞っていると、気分の乱れや体調不良として現れると考えられています。
ナーディとチャクラはどうつながっている?
ナーディは「エネルギーの通り道」、チャクラは「その交差点」。
この2つはセットで考えるのが、プラーナヤーマの基本です。
ナーディを道路に例えてみましょう。
中でも、スシュムナー管・イダー管・ピンガラ管の3つは、都市を結ぶ高速道路です。
それらが交わるチャクラは、大きなジャンクション(交差点)。
つまりチャクラの流れをスムーズにすることで、全身にプラーナがいきわたるのです。
呼吸法の種類と体の仕組み

実は、呼吸の主役である肺には筋肉がありません。
肺そのものは自分で動くことができず、まわりの筋肉――呼吸筋の働きによって膨らんだり縮んだりしているのです。
具体的には、以下のような筋肉が呼吸を支えています。
- 肋間筋(ろっかんきん):肋骨の間にある筋肉で、胸を広げたり縮めたりする
- 横隔膜(おうかくまく):胸とお腹を隔てる大きな膜のような筋肉。上下に動いて肺の容積を変える
これらの筋肉の使い方によって、呼吸にはいくつかのスタイルがあります。
ここでは、ヨガでもよく使われる代表的な3つの呼吸法をご紹介しましょう。
- 胸式呼吸(きょうしきこきゅう)
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- 主に肋間筋を使って胸を広げる呼吸法です。
- 胸の上部がふくらみ、肋骨が広がるのを感じます。
- 肋骨のあたりに手を当てて行うと、動きが実感しやすくなります。
ヨガでは、「ウジャイ呼吸」や「カパーラバーティ」なども胸式呼吸をベースにしています。
交感神経を活性化する傾向があり、活力や集中力を高めたいときにおすすめです。 - 腹式呼吸(ふくしきこきゅう)
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- 横隔膜をメインで使う呼吸法です。
- 吸うときに横隔膜が下がり、内臓が押し出されてお腹がふくらみます。
- 吐くときには横隔膜が戻り、お腹がへこみます。
お腹に手を当てて、上下の動きを感じながら呼吸してみましょう。
副交感神経が優位になりやすく、リラックスしたいときや不安を落ち着かせたいときに効果的です。 - 完全呼吸(完全呼吸法)
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- 胸式と腹式を合わせた深い呼吸法で、肺の機能を最大限に活用します。
- 吸うとき:お腹 → 肋骨 → 鎖骨の順にふくらむ
- 吐くとき:鎖骨 → 肋骨 → お腹の順にしぼんでいく
この呼吸では、一度に多くの酸素(=プラーナ)を取り入れられるだけでなく、
自然に姿勢も整い、自律神経のバランスや心の安定にもつながっていきます。つまり、これがまさに「プラーナヤーマ=生命力を増やし整える」実践そのもの。
ヨガのプラーナヤーマでは、この完全呼吸を土台にさまざまな呼吸法を展開していきます。

呼吸は、私たちの「心・体・エネルギー」をつなぐ架け橋。
どの呼吸が今の自分に合っているかを知ることは、自分自身を理解する第一歩でもあるのです。
毎日の「ひと呼吸」でチャクラを磨く|ビギナー向けプラーナヤーマ
朝、駅まで歩く道。
仕事の合間、ふと目を閉じたくなる瞬間。
夜、ふとんに潜り込む前の静けさ。
そんな“日常のすきま”に、たったひと呼吸の魔法を取り入れてみませんか?


ヨガの呼吸法「プラーナヤーマ(prāṇāyāma)」は、ただの深呼吸ではありません。
プラーナ(生命エネルギー)を“取り入れ・整える”ための呼吸の知恵です。
難しいポーズも専門知識も不要。
背すじをすっと伸ばして、イメージとともに呼吸をするだけで、チャクラがエネルギーで満たされていきます。
今の気分やコンディションに合わせて、ひとつのチャクラだけに意識を向けてもいいし、7つすべてを巡ってもOK。
忙しい毎日こそ、ほんの3分。
呼吸という名のセルフメンテナンスで、内側からわたしを整えていく――
そんな小さな習慣、始めてみませんか?
呼吸法のステップ|“わたしの呼吸”を整えるベーシック・プラーナヤーマ
呼吸に意識を向けることは、自分自身を整えることにつながります。
ここでは、チャクラに意識を向ける前に知っておきたい、基本の呼吸法(プラーナヤーマ)のステップを紹介します。
ヨガを知らなくても、体が硬くても大丈夫。
「吸って吐く」――その当たり前の動作を、少しだけ丁寧に。
それだけで、心も体も静かに整っていきます。
- ソファでもチェアでも、床にあぐらでもOK。
- 背骨をまっすぐに伸ばす意識だけ持ちましょう。
- 頭のてっぺんが糸で引かれているような感覚で、重力に逆らわずスッと背すじを伸ばします。
- 肩や顔の力をゆるめて、手は膝の上にそっと置くだけでOK。



「ちょっと一息」と思ったときが、ベストタイミング。
- まずは自然な呼吸を観察するところから。
- 鼻からゆっくり4秒吸って、6〜8秒かけて細く吐く。
- 呼吸は「長く、深く、静かに」がキーワード。
- 吐く息で「今までの忙しさ」を手放し、吸う息で「今この瞬間」を味わうように。



音楽を止めて、空気の音に耳を澄ませてみてください。
- お腹・肋骨・胸の順に空気を満たす、ヨガの基本呼吸です。
- 吸うとき:お腹 → 肋骨 → 鎖骨の下(胸)までふくらませる
- 吐くとき:胸 → 肋骨 → お腹の順にしぼませる
- 息を「上から下」「下から上」へ動かすイメージで呼吸してみてください。



両手をお腹と胸に添えると、動きが感じやすくなります。
- 3〜5分ほど呼吸を続けたら、ただ目を閉じて座るだけの時間を。
- 思考がふわふわしていてもOK。「静けさを探そう」としなくて大丈夫です。
- 背骨に風が通るような感覚があれば、内側のエネルギーが動き始めているサインです。



鏡を見たときの顔の表情が、ふわっとやわらかくなっているかもしれません。
- 毎日1セット・3分でOK。朝起きたとき、仕事の合間、寝る前など自由に取り入れて。
- 呼吸のリズムは「4秒吸って/8秒吐く」が基本ですが、きつければ3秒吸って/5秒吐くでも◎。
- スマホのタイマーを3分間に設定して目を閉じるだけでもOKです。
チャクラフォーカス呼吸|色とテーマでエネルギーを整える
呼吸に慣れてきたら、次はチャクラに意識を向けながら呼吸するプチワークを。
チャクラは、体の中心にある“エネルギーの交差点”のような存在です。
吸う息で色や光を取り込み、吐く息で緊張やモヤを手放す。
そんなシンプルなイメージを添えるだけで、内側の流れがすっと整う感覚が生まれてきます。
ここでは7つのチャクラそれぞれに対応したテーマと呼吸のイメージ、さらに日常に取り入れやすいシーン例までご紹介します。
あなたの「今」にフィットするチャクラを、気軽に選んでみてください。
チャクラ | 色・場所 | 意識するテーマ | 呼吸のイメージ | シーン |
---|---|---|---|---|
第1チャクラ ムーラダーラ | 赤・尾てい骨 | 安定・安心感・グラウンディング | 大地から赤い光がスッと吸い上がり、根っこが伸びるような感覚 | 玄関を出る瞬間、足裏で大地を感じて |
第2チャクラ スヴァディシュターナ | 橙・下腹部 | 感情の解放・創造性・しなやかさ | 吸う息で下腹にあたたかなオレンジ色が広がり、吐く息で硬さがほどける | バスタイムに、今日の気持ちを洗い流すように |
第3チャクラ マニプーラ | 黄・みぞおち | 自信・行動力・内なる火 | 太陽のような光球がみぞおちに燃え、呼吸で全身に力が巡る | 通勤前、エナジードリンクより効く一呼吸 |
第4チャクラ アナハタ | 緑・胸の中央 | 愛・思いやり・調和 | 胸がグリーンの光でふわっと包まれ、呼吸でやさしさが広がる | ランチ後、ふと人に優しくなりたい時に |
第5チャクラ ヴィシュッダ | 水色・のど | 自己表現・浄化・誠実さ | のどが澄んだ水色に光り、詰まりがほどけていく感覚 | 大切なメールを書く前に深呼吸 |
第6チャクラ アージュニャー | 藍色・眉間 | 直感・洞察力・静けさ | 吸う息で眉間に藍色の点が浮かび、吐く息でその点が内に溶ける | 会議前の3呼吸、雑念をクリアに |
第7チャクラ サハスラーラ | 白/紫・頭頂部 | 高次の意識・精神性・つながり | 頭頂から白い光が降り注ぎ、全身にやわらかく浸透していく | ベッドサイドで心のチューニングに |



1チャクラにつき 吸う・吐く×3呼吸。全体でわずか3〜4分、朝でも夜でもOKです。
まとめ|呼吸でめぐるエネルギー、整うわたし
呼吸は、いつでもどこでも自分を整えることができる、もっとも身近なセルフケア。
「プラーナヤーマ」は、呼吸をとおしてプラーナ(生命エネルギー)を整え、チャクラの流れをスムーズにしてくれる、シンプルで奥深いヨガの実践です。
難しいポーズもテクニックも必要ありません。
たったひと呼吸で、エネルギーのバランスが変わり、心と体がふっと軽くなる――。
そんな「呼吸で整えるライフスタイル」を、今日からあなたも始めてみませんか?

